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2025-01-29東北(サファリパーク)

星と銀河の小宇宙(浄土平・吾妻小富士)【蘇る記憶の玉手箱03】  

「旅を書く」とは不思議なものだ。その渦中で感じた事、心を揺り動かされた事のライブ感は、刹那刹那で完結している。

 

その風の触感、気温の皮膚感、太陽の位置、雲の流れ、音、匂い、生き物達の囁き、目に写る風景や色、そして味覚までもが瞬時にして移ろい、二度と同じ状況は訪れない。

 

だからこそ、旅人として心を開放し彷徨するという事は、それだけで愛おしい程貴重な時間を送れる。なぜなら、見知らぬ時空の中に身を置き、様々な事を味わい、考え、想う事ができるからだ。

 

そして「日常」に舞い戻り、旅の刹那を少しの間振り返る時、まるで樽の中で熟成された原酒のように、しだいしだいに発酵されていくのが感じ取れる。

 

人は誰でもその樽を持っているものだ。普段は密閉されているが、ひとたび蓋を開けると、程良く発酵されている事が良く分かる。

 

ただ余り時間がたち過ぎ密閉したままだと、角が取れ過ぎ、「ただの思い出」となり、まろやかになり過ぎるし、かといってすぐに蓋をあけると、いささかパサパサとした概念や触感が言葉になって出てきやすい。(それも悪くはないのだが・・・)

 

「旅」が生活の大事な要素になって久しい。ただ超忙しい日常の中で、ともすれば、あっという間にその感動は流され、薄れてしまいそうだ。でも、ひとつひとつの場所・状況は、しっかりと樽の中で寝かせてはいる。いくばくかの写真と供に。

 

今後は、その樽の中から言葉というヒシャクで、ちょっとだけすくっていこうと思う。そうする事で、ほんのわずかだけども、程良く発酵されたエキスを少しだけ口に含む事ができるかもしれない。

 

◇ ◇ ◇

 


今回の旅先は福島の浄土平。その先にある吾妻小富士という火山。その時にチャレンジした早朝の登山が、とてもメモリアルだったので、それに絞って綴ってみよう。

 

1泊以上の旅に出たとき、早朝に起きる事が多い。それもかなりの早朝。それはこの時間帯が、最もシュールで非日常的な、旅のプラチナタイムだからだ。

 

この日は3時起床。他の宿客を起こさぬよう静かに山小屋を出る。思った程寒くはないのでホッとする。ここ浄土平は標高1600m。夏とはいえ、高原の朝は極度に冷え込むからだ。

 

真っ暗い山道を懐中電灯で照らしながら小高い山(吾妻小富士)に向かう。途中、獣の「ガサッ!」という音と気配にびっくりしてシリモチを付いてしまったのもご愛敬。(ここではクマが出るので、かなり緊張していた)

 

山のふもとまで来て、一服。頭上に燦然と輝く満天の星がとても美しい。(今回は半月の頃なので、月あかりはない) 高さはせいぜい100mの丘といった風情の山だが、独立峰なので、そのシルエットと星々達が、ちょうど映画の「未知との遭遇」のデビルズタワーを思い起こす。

 

素晴らしく雄大な光景だ。さあ、登っていこう。 一歩一歩光で照らしながら、その高度を上げていく。しばらくして爆裂口の入口に立った。この山は噴火で出来た火山で、ちょうどすり鉢状になっていて、その稜線をぐるりと一周できる。

 

その稜線を登り歩き、東側までの半周。狭い所は2m程。懐中電灯で両側の稜線を照らしながら歩くので、かなりのスリル。両側は断崖絶壁。まだ完全なる深夜の、真空のような闇。暗い巨大なすり鉢を見下ろしながらのスケール感は圧巻だ。

 


ほどなくして、眼下に福島市の夜景が、まるで銀河の小宇宙のように横たわっていた。一瞬、ハッと息を飲んだ程。それは深い夜の闇の宇宙に輝く、まさに光の星団のようだった。

 


そしてこの山:吾妻小富士の頂上に到着。空はうっすらと赤味が差し、しばし大地の眠りから覚醒に移る声を聞く。鳥も鳴かない、生物の気配もない、まさにこの火山自体が深い眠りから覚めていくような感じだった。

 


持っていったスコッチで、体の芯にポッと暖をとる。

 


そして5時過ぎ。朝陽が顔を出す。

 


標高はさして高くないので、雲海の上のご来光という感じではないが、すっぽりと朝霧に包まれた福島の盆地が、山水画のように横たわる風情がとてもいい。

 


日が出ると一瞬のうちに朝を迎える。そうなるともう見慣れた日常の光景だ。さあ山小屋へ戻ろう。

 

8月最後の高原にと、この地を選んだ。実は幼少の頃、福島市に1年程住んでいた事があった。そしてこの浄土平にも2~3度訪れていて、なんと実に数十年ぶりの再訪であった。その意味でも、僕にとっては懐かしくも甘酸っぱい、夏のヒトコマとなった。

 

ここは湿原もあり、神秘の沼もあり、手軽に登れる山もありと、とてもいい地である。そして夏に一度は必ず山小屋に泊まりたくなくなるのも、自然にどっぷりと浸れるその素朴さと、人情の温かさに惹かれてだろう。

 


今回泊まった山小屋。

 

素朴ながらも、とても風格がある。

 


味わいのある建物だった。

 

さて、時は1月下旬。次はどこへ行こうか?そんな事を考えるのも、忙しい日常のささやかな楽しみ事でもある。

 

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