2020-09-12太平洋・オセアニア
潮と風とサンミゲル。(フィリピンのセブにて)
僕が想う「いいシチュエイション」とは、時間も空間も心の中までもが刺激とマドロミの中にあること。そして動き、流れ、そこで全てが完結されていること。
そして、ある一つの「イマジネーションの萌芽」に出会うことだ。
今回の舞台はフィリピン。かつてはダイブの旅でよく行っていた。
その中で、今でもくっきりと印象に残っている、あるシチュエイションがあった。
それはセブからバンカーボートに乗って、ダイブポイントに向かう道すがら。
この国のワイルドな潮臭さ、絡みつくような風、そしてシンボルのようなサンミゲルの小瓶…。
厳密に言えば、その時に飲みながらという訳ではなかったのだけど、その完結し結晶化されたイマージュの世界は、僕の中ではやはりこのビール瓶そのものだったのだ。。
◇ ◇ ◇
波を切り、滑るように海面を走る。風景が加速する。
船頭に寝そべると、まるで白い鳥が羽を広げたようだ。さあ、どんどん進め。
陽の光が透明になっていく。風の力。「何か」に向かって行く時の、恍惚とした緊張感。
でもそれも、潮と風で「風化」していく。目的地の名前も忘れてしまった。。
意識の中の「脆弱さ」を陽にさらけ出す。天然の沸騰消毒。少しづつ「芯」のようなものが蘇生される瞬間。
光は雄弁に物語りを語り、細胞の一つ一つが浮き足立ち、風が心地良くそれを吹き飛ばす。
大好きだったドゥービーの昔のヒットソング。
ちょっともじって「ロング・フォレイン・ランニング」。
乾いた北米の大地を走る列車と、この異国の大海原を行く舟が重なり合う。
潮だ。内陸は塩の湖ができる程、塩に満ちている。そして船の上は常に潮風にさらされている。
共通項は、塩=潮だったのだ……。
見知らぬ島に降り立つ。外からの人に興味を示さず、黙々と暮らす人々。
様々な色の衣服が、まるで国旗のように風にたなびく。
乾いた原色。潮と風で幾重にもなめされた色の味わい。
強烈な日射しにしか出せない色がある。深い影の強いコントラストが、黒っぽく色調を整える。
くっきりとしていて、どこか寂しい…。
日なたくさい懐かしい匂い。ほんのわずかの異邦人。声をかけても無言の子供達。
帰り際に振ってくれた手に、「はにかみ」なんて忘れてた言葉を思い出す。
そしてまた目的地に向かう。一年という月日の後、そこはどんな表情を見せてくれるのかな。
でも旅の半分は、そこに着くまでのインスピレーションで終わる。
道すがらの中にこそ、旅時間の本質があるからだ。
それは空想とリアルが交錯した、甘酸っぱい「夢幻」のようなもの…。
帰ったら、まずサンミゲルだ。それも汗をかいた、キンキンに冷えたヤツを。
—–—–カビラオに向かうバンカーボートにて